図書館で予約した1週間後の4月29日、電話サービスで確認すると用意出来たというので取りに行き、連休中に読みました。
結論からいうと、記憶にあったストーリーは当たらずとも遠からずだったけど、物語の主題となる肝心なところがすっぽり抜け落ちてました。その主題というのが、戦中と戦後における日本での朝鮮人の扱いをはじめとする戦争に関する記述の部分で、今読めばそこがいちばん重要なのだと分かるんだけど、当時の私は冒険・サスペンス部分に気をとられてあまり深く考えていなかったようです。
以下は簡単なあらすじ。
舞台は新興住宅地。そこに越してきた主人公は、ペットのリスを殺したのら猫を探していて偶然地下壕を見つける。しかしそこを倉庫として使っていた麻薬密売組織につかまり、友人とともに壕に閉じ込められてしまう。出口を探して迷いこんだ奥で記号のような落書きを見つけるが、後にそれはハングルで刻まれたものであり、地下壕は戦時中に強制労働させられた朝鮮人によって掘られたものだったと解る。
この本が出版されたのは1979年。25年前だから時代的に古く感じられる部分もあるけれど、物語そのものはかなり楽しめました。今の子供でもじゅうぶん面白いし、いろいろと感じられるんじゃないかなぁ。著者は成人文学の作品が多いとプロフィールにあるけれど、子供の日常や心情がとても丁寧に書かれていて、突飛に見える設定(戦時中の地下壕・麻薬団等)も現実感をもって迫ってくるんです。
それから、住宅ローンや母子家庭の経済状況の話や、父の後妻とうまくいかない主人公の友人が出てきたり、大人達の現実というようなものも淡々とではあるけどしっかりと書かれていて、児童文学ながら甘さがないところもいいです。
ラストも、リスに託したSOSによって救出・麻薬団の逮捕と「少年の冒険物語」的には文句無しのエンディングなんだけど、朝鮮人の残した落書きの内容の悲しさを知ったり、地下壕が発見されたことによる問題点が住宅地に住む主人公達自身にふりかかってくるなど、やっぱり甘くないです。
さて「突飛に見える設定」については、あとがきに興味深いことが書いてありました。
一九七五年三月六日の朝日新聞に、東京の郊外にある日野市でおこった次のような事実が報じられている。
「日野市住宅地の真下に戦時中に造られた軍需工場用とみられる地下壕が張りめぐらされ、そのままになっているのが数年前見つかり、調査の結果、付近の地盤は弱く、住宅ごと陥没する恐れがあり、土砂を注入して埋めもどす必要があることがわかった。
これ、その後どうなったんでしょう。
書籍データ:
SOS地底より
伊東信・作 横山明・絵 株式会社ポプラ社
★おまけ
はじめ図書館のカウンターで受け取ったとき、考えていたのと装丁が違ったので「アレ?」となったものの、表紙と中表紙の絵にはかすかに見覚えが。やっぱり目で覚えているもののほうが忘れないのかな?検索で見かけた「カマドウマ」(←かなり重要)「朝鮮」がキーワードというのも全く覚えがなかったので、どれだけ記憶がいい加減だったか分かるなぁ。
最後にもうひとつ、先日のエントリにも書いた「こがね谷の秘密」という別の本なんだけど、これにも洞くつと少年と悪い大人達と○○、それと砂金が出てきます。「SOS地底より」を読み直して思ったけど設定上の類似点が多いかも。